• 6月号

    テーマ「雨」

    Taxi Saudade

    Homenagem A Joao Gilberto

    雨の日の昼下がり

    冬の終わり、小雨が舞う昼下がりの午後。

    誰もいない静かな店の入り口のドアが開く。

    タクシーサウダージだ!

    6年前に還暦でデビューした秩父のボサノバシンガー。

     

    可愛い柄のシャツをさらりと着こなし、

    カウンター越しの何気ない会話も、渋い声と相まってどこか歌っているかのよう。

     

    ケアブレンドを一口すすり、

    「これ聴いてみてよ。」

    と渡してくれたのはマスタリングを終えたばかりの新しい音源だった。

     

    CDをセットし再生ボタンを押す。

    そのほんの間の静けさ、胸躍る瞬間。

     

    スピーカーから流れてきたのは、

    柔らかなギターの音と朴訥な歌声。

    長閑な山並みの景色や優しい風の音のように、

    体の奥深いところに染み渡っていくような音楽。

    秩父へのサウダージ。

     

    本当に素晴らしくて、素直に感想を伝えると、

    「嬉しいこと言ってくれるじゃんか。」

    とはにかんだような笑みを浮かべた。

     

    なんでもない日に不意に訪れる、贅沢な時間。

    これだから喫茶店は楽しい。

     

    黄色い花をつけたミモザをぼんやりと眺めながら、一足早く夏を感じた、雨の日の記憶。

  • Baby Blue

    Sunny Day Service

    雨の日のドライブ

    大学を辞めてからバイトに明け暮れていた26歳の頃の話。

    その日も僕は深夜の清掃作業を行うために、

    ボロボロハイエースを運転して

    入間にあるドンキホーテに向かっていた。

    夜の9時。外は雨。視界が悪い。最悪だ。

    助手席には6つ上のバイトの先輩が座っていて、静かにタバコを吸い、

    少し開けた窓の隙間に煙を吐いていた。

    「今日CDもってきたんですよ。サニーデイ」

    僕はそう言ってCDを取り出した。

    先輩とはサニーデイ・サービスとBECKが好きだいう共通点があって親しくなった。

    一見怖そうで寡黙な先輩がサニーデイを好きなのは意外だった。

     

    baby blueが流れ始める。

    アコースティックギターの音色が静かに響く。

    煙草の白い煙が窓の隙間から流れる。

    街灯がキラキラ光る。信号が赤から青になる。

    先輩は右手の人差し指で音を立てずにリズムを取っていた。

    そして静かに曲に合わせて歌を口ずさんでいた。

    僕も続けるように歌を口ずさんだ。静かに。とても静かに。

    雨は止まない。

    視界が悪く、最悪だ。

    でも、僕はその時間が凄く好きだった。

  • 雨の日の服

    私の雨の日の格好といえば、このバブアーのジャケットだ。

    もともとは、狩猟や乗馬の際の雨合羽として作られている為、生地にオイルを染み込ませ ており、

    これが重い、独特のオイルの匂いがすると着づらい事この上ない前時代的な衣類 であるが、

    そこには独特なオーラがある。

     

    私が新婚旅行でパリに行った際、雨のヴァンブの蚤の市に出かけてみた。

    その時の出店者のオヤジ達は決まってこのバブアーを着ており、

    傘もささずその長年着込んだ、バブアーの ポケットに手を突っ込んでいた。 パリの街並と合間ってその光景がとても格好良く見えた。

     

    雨の日はこのジャケットを羽織り、あの時のパリのオヤジになった気分でポケットに手を突っ込み

    馴染みの喫茶店へ向かうのが私の中での密かな楽しみだ。

    あめふりの絵

    最近カルネに仲間入りしたのがこのあめふりの絵。

    お店のロゴを描いてくださった、ますこえりさんのシルクスクリーン作品で

    7年越しで欲しかったものである。

     

    当時、千駄木にあった古道具屋「Negla」さんでみかけて、

    心ときめいたのを今でも忘れない。

     

    ますこさんに出会ったのは、ちょうどその少し前。

    山中湖のほとりで開催された友人の結婚パーティでだった。

     

    歳が近いことや、同じ時期に谷根千エリアに住んでいたことがわかり、

    共通の話題も多く、山中湖からの帰路は話通しだった記憶がある。

     

    さて、そのNeglaさんに向かった日は

    同じく千駄木の食堂「檸檬の実」さんの2Fで開催されていた

    ますこさんの展示『わたくしたちの皿』に出かけたのだった。

    これまでも作品は見ていたものの、展示ではどれもこれも胸キュンだった。

    そしてその後に、このシルクスクリーン。ひどく心がときめいた。

    いつか私も欲しいなぁ、と強く思ったのだった。

     

    それから7年。カルネにお迎えすることに!

    念願叶い、私はひとりとても幸せな気分なのである。

    雨のニューヨーク

    私はたぶん『雨女』だと思う。

    妹の結婚式の立会人として、初めてNYを訪れた。

    出発前の私の頭の中では…

    9月のNY、気候も最高に過ごしやすいだろうから、

    短パンにサンダル、サングラス。

    グランデサイズのコーヒーを片手にセントラルパークを優雅に散歩する自分を想像していた。

    ところが、予想に反して気温が低く短パンにサンダルどころではない!

    しかも豪雨。傘をさしても足元から濡れていく・・・

    持ってきた一眼レフさえ取り出すのも億劫になるくらいの雨。

    ここは見ておきたいと訪れた、ダコタハウスを雨に打たれながら眺めた。

    振り返ると、セントラルパークの入り口に『IMAGINE』のサークル。

    雨で濡れたそのサークルの上にピンクの花びらが散りばめられていた。

    傘をさしながら足を止めて見つめる人々。

    今でもなお世界中からこの場所を訪れる人がたくさんいるんだ。

    雨のせいで視界は不明瞭。

    それ以上、公園を散歩する気にはなれなかったけど

    『今日だけは、雨でよかった気がする』。

    旅先でそう思えた唯一の日だったかもしれない。

    もちろん頭の中では『IMAZINE』が静かに流れていた。

    雨の日に描いた絵

    お茶の名は「白芽奇蘭」。

    中国は福建省平和県で作られている半発酵茶という。

    ウーロン茶に分類される。

    けれど、味は日本でなじみのあの烏龍茶とは格段に違う。

    (格も段も本当に違う。こう、しつこく言いたくなる位に。)

    一言で言うならば、「美味しいお茶は、お茶うけ要らず。」

    もう、それだけで、十分に口福なのだ。

    雨の日は、外が静かだからか、味覚は鋭くなるような、

    ただ、いいお茶に導かれただけのような。

    まあ、どっちもいい。

    Pictures or Lines

    by Many Authors

    ブルーナの 大粒の涙

    トーベ・ヤンソンの 松の葉をならべたような

     

    ワンピースの中には 水色のしずく

     

    ノンタンの いじわるくも

    ぐりとぐらの 糸の切れはし

     

    12にんの おんなのこたちは

    ふっても てっても 

    さんぽにでます

     

    今も どこかで

    まだ見たことのない雨が 降っている

    そう思うと こころが弾む

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